本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
「嬉しいです。花山さん……いえ、千帆さん。よかったら皆で乾杯しましょう。私あそこのジュース取ってきます!」
「あ、なら私も一緒に……!」
「ウェイターさんに運んでもらうから大丈夫ですよ」
そう言って、鈴山さんはぶどうジュースが並んでいるブースへと小走りで向かって行った。
すごい、可愛くて綺麗で、気が利く人だなあ……。私とは何もかも正反対だ。
再び三人きりになると、三条君がニコニコした笑顔でまた紫音を煽るようなことを発言する。
「紫音君、彼女のことエスコートしてあげたら? 紫音君への好意ダダ漏れじゃん」
「やりたいならお前がやれ」
「やだよ、あの子絶対地雷じゃん。大人しそうに見えるけど、千帆ちゃんへの嫉妬を隠せてない」
三条君の後半の言葉は、こそっと紫音に耳打ちする程度の声だったので、聞き取れなかったけど、何やら紫音はそれを聞いてより顰めっ面になっている。
そうこうしている間に、ウェイターさんを連れて、鈴山さんが可憐に戻ってきた。
「せっかく少ない同世代ですから、乾杯しましょう」
「鈴山さん、ありがとう」
お礼を伝えると、鈴山さんはにっこり私に笑みを返してから、スッとひとつのグラスを取るとそれを紫音に渡した。
「どうぞ、紫音様」
「…………」
「あ、もしかして、ぶどうジュースはお嫌いでしたか?」
「ううん、紫音はぶどうジュース大好きだよ!」
黙ってる紫音の代わりに答えると、鈴山さんは「よかったです」とまた優雅に笑ってくれた。
紫音は不服そうな顔でグラスを手に取り、私のことをなんとも言えぬ表情でじっと見つめている。
な、なんだ……? 鈴山さんとそんなに仲良くしてほしくないのか……?
「三条様、ぜひ祝杯の声かけをお願いしたいですわ」
不機嫌な紫音をスルーして、鈴山さんは乾杯の音頭を三条君にお願いする。
三条君はそれをナチュラルに受け入れて、グラスをすっと上にあげた。
「じゃあ、今日は来てくれてありがとう。乾杯」
三条君の言葉で、グラスを皆で重ね合わせる。チン、というガラスがぶつかり合う音が響いて、私は少し大人な気持ちになった。
一口飲むと、口の中いっぱいにぶどうの濃厚な香りが広がる。このジュース、私が知ってるぶどうジュースじゃない! 美味しすぎる! これはぶどう好きの紫音なら尚更感動なのでは……!
「紫音、このぶどうジュース美味しいね!」
興奮して話しかけたが、紫音はまだジュースを口にしていなかった。
「……鈴山さん、変なもん入れてないですよね?」
「紫音‼︎ 失礼すぎだよ‼︎」
ジュースを飲まないどころか、鈴山さんにかなり失礼なことを言ってのける紫音に、私は青ざめものすごく驚いた。
鈴山さんは困ったように笑っていて、私はそれを見ていられなくて、紫音のことをキッと睨みつける。
「普通にすっごく美味しいぶどうジュースだから!」
「ふぅーん……」
「紫音、どうしちゃったの?」
グラスをしばらく訝しげに見つめていた紫音だけど、私の怒った顔を見て、しぶしぶ「分かったよ」と言って紫音はジュースを飲んだ。
私は鈴山さんにぺこぺこ頭を下げて謝罪する。