本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~

「すみません、うちの紫音が本当に失礼で……!」

「いいんですよ。紫音様レベルの人なら他人を警戒して当然です。では、私はこれで……」

「あ、もう行っちゃうんですか!」

 もしかして紫音の発言で気分を害したせいで帰ってしまうのかと思った私は、少し焦った。

 すると鈴山さんは、一番近くにいる私にしか聞こえない距離で、ある一言をつぶやく。

「……αとΩの恋愛なんて上手くいくわけないってこと、思い知るといいわ」

 え……?

 聞き間違いかと思ったけれど、去り際に見えた彼女の表情はとても冷たく暗い顔だった。

 上手くいくわけないって、いったいどういうこと……?

 聞き返そうと思ったけれど、彼女は人混みの中へと消えて行ってしまう。

 疑問に思ったまま、その日のパーティーを終えたのだった。




 
 パーティーを終えた私たちは、三条君のはからいで、特別にホテルに泊めてもらうことになった。

 一階がレストランで、二階がホテルになってるらしい。

 赤絨毯が敷き詰められた廊下を歩いて、私は戸惑いながら部屋のドアの前で立ち止まった。

「ほ、本当に泊まっていいの……?」

「もちろん。二人は友達だから特別にね。当たり前だけど、紫音君と千帆ちゃんの部屋は分けてあるから。俺もあと二時間くらいは仕事の手伝いで残ってるから、何かあったら呼んで」

 そう言って、三条君は私と紫音にルームキーを渡してくれた。

 紫音はそれを受け取ると、「じゃ、また明日」と言って早々に部屋に入ろうとする。

 そのあっさりした様子を見て、三条君が意外そうな表情をした。

「あれ? 千帆ちゃんと同じ部屋でいい、とか言うと思ったけど、言わないんだ?」

「……言うわけねぇだろ。まだ番関係じゃないし、何が起こるか分からない 」

「本当に千帆ちゃんが大事なんだね、紫音君」

 二人の会話を聞きながら、私は頭の上にはてなマークを浮かべる。

 たしかに、紫音は私の部屋に不用意に来なくなったし、朝起こしに来ることもなくなった。

 私を思って紫音が行動してくれているのは、なんとなく理解しているけれど……。

「じゃーな、千帆。朝寝坊すんなよ」

「うん、おやすみ紫音!」

 笑顔で返すと、紫音はバタンとドアを閉めて部屋の中に入って行った。

 三条君は、私を見てニコッと笑ってから、そっと私との距離を詰めてくる。

「じゃあ、俺が千帆ちゃんの部屋に遊びに行っちゃおうかな……?」

「いいよ! ジェンガとかやる?」

「……うわー、一気に戦意喪失したー」

 張り切って提案すると、なぜか三条君は棒読みの台詞を吐いてから死んだ目になった。

 ジェンガという提案、イマイチだったのかな……。

 他に遊べそうなゲームを考えていると、三条君が突然真剣な顔になる。

「それは置いといて、ひとつ聞きたいことがあったんだ」

「ん? 何?」

「なんかさっき、鈴山さんに囁かれてなかった? なんて言われたの?」

「えっ!」

 あの一瞬の出来事を、三条君は見ていたんだ……。

 そのまま伝えていいのか分からず、言葉を詰まらせていると、三条君が「ん?」と優しく目を細めて聞いてきた。

 正直、私もあの時言われた言葉がいまだに胸の中でモヤモヤと渦巻いていて……。
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