本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~
 αの正気を失わせることで、Ωの恋人との信頼関係を破綻させることが目的……、より優秀な遺伝子との結婚を望むα女性が乱用……などと書かれている。

 他にも、”一家全員α”にする目的のためだけに、αの養子をとる家庭が増えてることなども。

「まさか、こんなことが……」

 ショックで言葉が出ない。

 遺伝子だけを見て、その人の中身も見ずに、身勝手に行動してる人がいるだなんて。

 怒りで震える手をおさえながら、私はすぐにパソコンにとある言葉を打ち込んだ。

【別れ薬 対処法 誤って飲んだ場合】

 苦しそうな紫音をひとまず寝かせながら、私は必死でこの状況を変えられる方法を探した。

「紫音、待ってね、今すぐ解決法探すから……!」

「千帆……」

「キャッ」

 検索ボタンを押した瞬間、うしろから紫音に抱きしめられ、そのまま床に押し倒された。

 ぐるっと視界が反転し、天井が目の前に広がる。

 興奮状態の紫音の目を見て、私はすぐにあの言葉を思い出した。

『理性を100%失ったら、もうそれは別人だよ』

 あ、本当だ……。

 “この人”はーー、紫音じゃない。

 瞬時にそう悟った。

「千帆っ……」

「紫音、やめて、元に戻って……! んんっ」

 無理やりキスをされ、助けを求める言葉を塞がれた。

 好きなのに。紫音の体なのに。

 どうしてだろう、怖くてたまらない。

 理由は分かっている。このキスには……“感情”がないからだ。

「紫音、待って、目覚まして……! そんな変な薬に負けないで!」

「千帆……」

 必死で紫音の体を叩いたり、全身で抵抗してみたりする。だけど、紫音の体はびくともしない。

 紫音の手が簡単に私の服を脱がせて、体の至る所に唇が触れる。

 どうしよう。どうしよう。

 このままじゃ、紫音が傷つく。

 ずっと、“こんなこと”にならないように、私のことを守ってくれていたのに。

 紫音の気持ちを想像すると、じわっと涙が滲み出てくる。

『俺と“番”(つがい)になる? 千帆』

『本当はこんな形で、言いたくなかったけど』

 あの時の、切なそうな表情の紫音が、頭の中にふと浮かんできた。

 私と、“心”で繋がることを望んでいた紫音。

 今更あの言葉が胸に染みて、胸がキュッと苦しくなる。  

 私は、紫音が好き。たとえどんな姿形になっても、αだろうもΩだろうとβだろうと、関係ない。

 私は、“伊集院紫音”が好き。だから、守りたい。

『αとΩの恋愛なんて上手くいくわけないってこと、思い知るといいわ』

「るさいっ……、負けないっ……!」

 熱っぽい表情の紫音の肩を、私はガシッと掴んだ。それから、なんとかキスを拒んで、全力で紫音の体を押し返す。

 キスから解放され起き上がれたその隙に、私は大声で叫んだ。

「誰かー‼︎ 助けてください‼︎‼︎」

 負けない。こんなことで、紫音を傷つけたりしたくない。

 本能的欲求だけで私を襲ってしまうことを、紫音はきっと一番恐れていたはずだから。

「三条君ーーー‼︎‼︎」

 力の限り、お腹の底から叫ぶ。

 しかし、それでも紫音の目は虚なまま。

 熱い吐息が首筋にかかって、再び私の体は押し倒されてしまった。

 ダメだ、仕方ない。こうなったらもう、やるしかない。
< 93 / 103 >

この作品をシェア

pagetop