官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 いつも送迎に使っているワンボックスカーは、雄ちゃんが貴斗と柚子ちゃんのお迎えに使っている。

 となると、残っているのは荷物運搬用の軽トラのみ。お客様をびっくりさせてしまうかもしれないけれど、他に車がないから仕方がない。車内を見苦しくない程度に片付け、私は運転席に乗り込んだ。


 諏訪島唯一の玄関口である諏訪港は、島の東側、ひぐらし荘からは車で十分ほどの場所にある。私はフェリーターミナルの駐車場に軽トラを停め、助手席に置いていたボードを手に取った。ターミナルに降りて来たお客様に、ひぐらし荘からの迎えであると気づいてもらうためのものだ。
 
 『歓迎 ひぐらし荘』とプリントしてある文字の下に、水性のマーカーで、時田様と書く。ボードを持って、ターミナルの中へと向かった。


 最終便は、思っていたほど混んではいなかった。乗客の下船はすぐに終わり、建物の中に次々に人が入って来る。

 最終便を使うのは、夏休みを使って帰省してきた学生や親子連れ、それに仕事で島と本島を行き来している人達くらいだ。観光目当ての乗客は、少しでも長い時間島に滞在できるよう午前中の便を利用することが多い。

 例外は釣り客だ。翌朝早くから朝釣りを楽しむためだけに来島する人もいる。仕事を終えて、そのまま釣り道具を持って、島に渡って来るのだ。だから私は、今回のお客さんも、てっきりそういう人だと思い込んでいた。

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