官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「……貴斗が産まれて、はいはいしたり歩き出したり、初めて言葉をしゃべったり、そういうの俺も見たかったな……」

 私は、貴裕さんから貴斗の傍にいてその成長を見守る権利を奪ったのだ。そのことに今さら気がついて愕然とした。

 それに、私がこの島に残るということは、貴裕さんから未来の貴斗を奪うということにもなるんだ。同じことを自分がされたら? 私なら、気が狂ってしまうかもしれない。

「貴裕さん、ごめんなさい」

「どうしたんだよ急に」

「だって……」

 私が思っていることが、貴裕さんに伝わったのかもしれない。

「俺は別に、美海のことを責めてるわけじゃないよ。美海はむしろ被害者じゃないか」

 貴裕さんは優しく微笑むと、今度は私の頭に手を乗せ、そっと触れた。このまま触れていてもいいかと聞くように、少し臆病な顔で私を見る。私は静かに頷いた。

「美海のこと、ひとりにしてしまってごめん。……ずっと心細かっただろう?」

 貴裕さんの優しい言葉に心が震えた。目尻にじんわりと涙が浮かぶ。それを逃すように息を吐くと、私は顔を上げた。

「ずっとみんながいてくれたくせに贅沢だって思うけど……、それでもどうしても寂しくなる時があったの」

 貴斗の成長を感じるたび、反対に、不安になることがあった時も、貴裕さんが一緒にいてくれたらと思わない時はなかった。貴裕さんでなければ埋められない穴のようなものが、ぽっかりと心の中に開いているようだった。

 でも貴斗をひとりで育てると決めたのは私なのだからと、自分で自分に言い聞かせてきた。

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