官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 貴裕さんは優しい。私のために、自分の気持ちを押し込めるくらいに。素子さんも言っていたし、私は彼に誠実であるためにちゃんと考えないといけないんだと思う。

「ありがとう貴裕さん。……私もちゃんと考えるから、貴裕さんとのこと」

「本当に?」

「うん」

「……ありがとう」

 今度は、先ほどとは違う穏やかな気持ちでお互い向き合った。


「明日ごめんな。貴斗のこと」

 それまでの切羽詰まったような空気が解け、貴裕さんはもういつもと同じ顔をしている。

「全然。そんなこと気にしないで楽しんできて。それより魚を釣ってきてくれたら貴斗も喜ぶと思う」

「貴斗、もう魚食べられるのか?」

「ええ、お刺身だって食べるし、魚を見るのも好きよ」

 環境のせいだと思うけれど、貴斗は海の生き物を怖がらないし、どんな調理法のものを与えても、わりと抵抗なく食べてくれる。

「大漁は無理だろうけど、一匹でも釣れるよう頑張るよ」

「うん、頑張って。そうだ、よかったら今日のお礼にお弁当――」

 思わず口に出しそうになって、思い留まった。貴裕さんみたいな人に、手作りのお弁当だなんて、口に合わないよね。

 それに、お弁当なら智雄さんが作るひぐらし荘特製の釣り弁当がある。私が作ったものとは比べ物にならないくらい美味しくて、リピーターがつくくらいお客さんにも大好評なものだ。

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