官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「どうしてここに――」

 私が言い終わるのを待たずに、いきなり視界が塞がれた。懐かしい匂いに包まれて、頭の中がさらに混乱する。

 貴裕さんは人目も憚らず私を抱きしめると、感極まった声でこう言った。

「やっと……やっと会えた」

 貴裕さんは、きつく私を抱きしめたまま離そうとしない。フェリーターミナルでは、知り合いも多く働いている。こんなところを見られたら、後でなんて言われるかわからない。

「貴裕さん……、貴裕さん!」

 焦って貴裕さんの背中をパチパチと叩く。ようやく我に返ったのか、貴裕さんは体を解放してくれた。

「ああ、悪い。つい……」

 自分のしたことに今さら気づいたのか、貴裕さんもバツの悪そうな顔をしている。

「貴裕さん、どうしてこんなところにいるの?」

「……どうしてって、美海に会いにきたんだよ」

「会いにって、どうして今さら」

 貴裕さんの言葉に、思わず眉をひそめてしまう。

 私が貴裕さんの前から姿を消してから、もう三年は経っている。

 それに貴裕さんはあの人と結婚して、会社も継いで幸せに暮らしているはずだ。今さら私なんかに会いに来る理由がない。

「ずっと美海のことを探してたんだ。でもどうしても見つけられなくて、先日ようやく君の居所がわかったんだ。それに君は何か誤解しているみたいだけど……」

 憂いを帯びた目で、貴裕さんが私を見る。

「誤解?」

 貴裕さんの言葉に、心臓が早鐘を打つ。いったい、私が何を誤解しているっていうの?

「話をしよう、美海。……俺は、君を取り戻すためにここに来たんだ」

 貴裕さんの強い意志を感じさせる視線に、ぐらりと地面が揺れた気がした。

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