官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「彼についていくの?」

「それが、まだ決心できなくて……」

 私が言うと、薫さんはウーロン茶のグラスを置いてうんうんと頷いた。

「相手のことを好きで、ずっと一緒にいたいって思ってて、たぶん子供のためにもそうするべきなんだってわかっていても、簡単に決められないよね」

「薫さんでも?」

「……そうね」

 そう言って、薫さんは寂し気な笑みを浮かべた。

 薫さんはもう何度も雄ちゃんからプロポーズされている。薫さんはそう感情を表に出す方ではないけれど、雄ちゃんを見つめる眼差しや雄ちゃんにかける言葉一つひとつに確かな愛情を感じる。それでも頷けない何かが、薫さんにもあるのだ。

「私は一度失敗してるから……。雄介のことが大事だからこそ、いつか失うことになったらと思うと耐えられない……。私が臆病なだけなの」

「……わかります」

 臆病なのは私も同じだ。本当に貴裕さんの傍にいるのが私でいいのか、いまだに自信が持てない。だから私も彼の言葉に素直に頷けない。

「彼はいつまででも待ってるって言ってくれたんです。ありがたいけれど、いつまでも待たせるわけにはいかないから、彼が島にいる間にちゃんと結論は出そうと思ってます」

「……そっか。ごめんね、私には美海ちゃんの背中を押すようなこと何も言えない」

「いいんです。私の気持ちを分かってくれる人がいるだけで心強いから」

「私も」

 本音を話して、薫さんも少し気持ちが晴れたみたいだった。

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