官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「パパ、たかともういたくないよ」

「おっ、貴斗は強いなぁ。それじゃ、もう降りる?」

 少し意地悪な口調で言うと、貴斗は貴裕さんの首にギュッとしがみついた。

「……いやよ」

 ぷるぷると首を振る。

「わかった。このまま抱っこして行こうな」

 貴裕さんは上機嫌で浜に続く階段を降りて行った。

「ちょっと前まで、ママ、ママだったくせに……」

 貴裕さんが何か言うたび、貴斗がはしゃいだ声を上げる。……貴裕さんに嫉妬めいた感情を抱く日が来るなんて、思ってもみなかった。

 貴斗の『パパ』呼びの効果は絶大だった。貴裕さんは貴斗の溺愛ぶりに拍車がかかる一方だし、貴斗も貴裕さんにべったりだ。

 もっと時間がかかるかもと覚悟していた。幼い貴斗に貴裕さんとの関係を理解してもらえるのは、もう少し大きくなってからだろうと。

 でも私の小さな考えなんて思いっきり飛び越して、貴斗も貴裕さんも急速に距離を縮めていく。

 本当なら、生まれた時から、いや、貴斗が私のお腹にいる時から、貴裕さんと貴斗は親子としての時間を積み重ねていくことができていたはずだ。

 ……私が、弱かったから。安藤さんの言葉を真に受けて逃げ出さなければ、ちゃんと貴裕さんを信じて向き合っていれば、こうはならなかった。

 これは、私が一生背負っていかなければならない事実だ。

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