官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 魚は案外賢く、貴斗の竿には、そう簡単にはかからない。

「おさかなつれないねぇ」

 思ったとおり、貴斗は十分もしないうちに飽きてしまい、釣竿を放り投げた。

「貴斗飽きるの早いよ……」

「子供の集中力なんてこんなものだろ」

 貴斗の相手をして、色々発見もあったようだ。ほんの数日前まで子供とまともに接したことすらないと言っていた貴裕さんが、そんなことを言う。

「水遊びでもさせるか」

「そうだね」

 道具を岩場の隅にまとめて置いて、砂浜へと移動する。三人ともサンダルのままで海の中に足をつけた。

「きもちいいね~」

 まだ午前中の早い時間だからか、肌に触れる海水は少し冷たい。足に纏わりついたかと思うとするっと引いて行く波が面白いのか、貴斗が笑い声を上げている。貴裕さんは貴斗が波に持って行かれないようずっと手を握っていた。

 この光景を、切り取りたいと思った。

「貴裕さん、写真を撮ってもいい?」

「もちろん。俺にも送っといてよ」

 なんでいちいちそんなことを聞くんだろうとでも言いたげな顔だ。

 背中のリュックからスマホを取り出し、ふたりに向ける。敢えて声をかけず、ふたりの自然な姿を数枚カメラに収めた。

 フォルダをタップして、撮ったばかりの写真をチェックする。映っていたのは、はしゃぐ貴斗と、それを愛しそうに見つめている貴裕さんの姿だった。

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