官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「鞄、荷台に積んでもいいかな」

「構わないよ」

 見るからに高価そうなボストンバッグを、軽トラの荷台に乗せる。ハイブランドのバッグをこんな扱いにしていいのかなとちらりと過ったけれど、荷台には敷物が敷いてあるし、まあ問題ないだろう。荷台の荷物を盗むような人もこの島にはいない。

 貴裕さんの方に回り、助手席のドアを開ける。

「どうぞ」

「ありがとう」

 感じよく微笑むと、貴裕さんはすらりとした肢体を窮屈そうに屈め、軽トラの助手席に乗り込んだ。

 古いせいか、あまり機能しない空調の音だけが車内に響く。先に沈黙を破ったのは、貴裕さんの方だった。

「美海は、元気にしてたの?」

「……ええ、変わりないわ」

 本当は、もっと聞きたいことがあるんだろうけれど、貴裕さんも、何から話せばいいのかわからないのだろう。私もどういう態度を取るのが正解なのかわからなくて、つい黙りこんでしまう。

 結局ろくに言葉を交わすこともなく、あっという間にひぐらし荘に着いた。


 宿の駐車場には、雄ちゃんが乗っていったワンボックスカーがすでに停まっていた。貴斗のお迎えは済んだのだろう。きっとふたりとも、宿の奥にある住居スペースにいっているはずだ。

 大丈夫、とりあえず貴斗と貴裕さんが鉢合わせすることはない。

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