官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました

「貴斗もうお昼過ぎたよ。おうちに帰ろう?」

「いや! たかとまだいる」

 初めての三人でのおでかけがよっぽど楽しかったのか、貴斗はなかなか帰ろうとしなかった。

 今も波打ち間際にいて、波を追いかけては逃げたり、落ちている海藻をつついてみたり、おもちゃのスコップで砂を掘り返してみたり。遊びの手を止めない。

「貴斗お腹空いてないのか?」

「へいき」

「おうちに帰ってちゅるちゅる食べようよ。たかと今日はパスタ食べるって言ってたでしょ?」

「たかとちゅるちゅるいらない!」

 何を言っても、聞く耳を持たない。このままでは、仕事の時間に遅れてしまう。

「美海この後仕事だろ。何時から?」

「二時からなの。三時にはチェックインが始まるから」

 遅番の時は、主にチェックイン業務と夕食の準備や片付けを担当する。フロントが滞らないよう、パートは最低ふたり以上待機するようにしているし、実際にチェックイン時間よりも早めに来られるお客さんもいるから遅れるわけにいかない。

「もう本当に時間がないな。貴斗帰ろう、ママお仕事なんだよ」

 貴斗を抱き上げようと、貴裕さんが手を伸ばした。

「や!」

 貴裕さんの手を振り払ったはずみで、貴斗が転んで尻餅をついた。

「あっ、貴斗!」

 そこへ運悪く少し大きな波が寄せてきて、貴斗はまともに波を被ってしまった。

< 142 / 226 >

この作品をシェア

pagetop