官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 貴斗とふたりで暮らしてるのは、島の中心部から少し外れた場所にある小さな一軒家だ。

 この島に帰った時、一番悩んだのは住まいのことだった。

 元々の実家は、私が東京に出た時に売りに出したので、もう人手に渡っている。

 狭い島だからアパートなんてないし、唯一の手段である町営住宅は空きがない。素子さん達は一緒に住めばいいと言ってくれたけれど、さすがにそこまで世話になるのは気が引けた。そんな時、雄ちゃんが教えてくれたのが、この家だった。

 以前は、高齢のおばあさんがひとりで住んでいたらしい。年齢と共にひとり暮らしが困難になり、おばあさんは関西に住む息子さんの元へ行くことになった。空き家のままにしておくのももったいないということで、役場に息子さんから相談があったらしい。

 役場から私の事情についても話が行っているようで、家主さんのご厚意で、家賃も想定より少し安くしてくれた。

 貴斗が産まれるまでに契約も全て済ませ、小さな子供と住んでも問題がないように片付けた。

 古いけれど、居心地のいい家だった。小高い土地にあるからか、縁側から海が見えるし、窓を開け放てば、気持ちのよい風が入る。貴斗ものびのびと過ごしている。

「古くて驚いたでしょ」

「いや、美海ひとりでよく管理してると思うよ。不便なことはないの?」

「貴斗が産まれるまでに少し手を入れたの」

 水回りや細かな段差など、気になったところは業者さんにお願いした。

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