官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 話しているうちに、お風呂が沸いたので、貴裕さんに入れてもらうことにした。

「貴裕さんひとりで大丈夫?」

 もう家を出なければならない時間だった。

「なんとかなるさ。本当に困った時は電話する」

「そうして。冷蔵庫に作り置きのおかずがあるから好きに食べて。貴斗にも何か食べさせてあげてくれる?」

「わかった。美海は?」

 海からバタバタと帰ったおかげで、私も何も口に入れていない。

「私は大丈夫。なんとかなるわ」

 小さい子供とふたりで住んでいたら、自分のことなんて後回しだ。こういうことは、慣れっこだった。

「それじゃ、いってきます」

「ああ、気をつけて」

 貴裕さんに見送られて、私は仕事に向かった。


 その日は団体のお客さんが入っていたせいで、家へ戻ったのはいつもより少し遅い時間だった。貴斗のことが気になったけれど、私のスマホにもひぐらし荘にも、貴裕さんからの連絡はなかった。

「ただいま」

 家に入ると、茶の間の電気は付いておらず、ふたりの声もしない。足音を忍ばせて中に入ると、茶の間から続く和室に布団が敷いてあり、貴斗と貴裕さんが並んで横になっていた。

 キッチンや茶の間は家を出た時よりも散らかっていて、貴裕さんの奮闘ぶりがうかがえた。力尽きて、どちらも寝てしまったというところだろうか。


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