官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 この数日は、貴裕さんにとっても嵐のようだっただろう。

 いくら覚悟を決めて来たとはいえ、いきなり存在を知らされた子供の面倒を、自ら進んで、しかも付きっ切りで見てくれた。貴斗がどんなにぐずっても拗ねても、貴裕さんは貴斗に声を荒げることはなかった。本当にいい父親になろうと頑張ってくれているのだと思う。

 貴斗と同じ、洗いざらしのさらりとした髪をそっと撫でる。

「……ありがとう、貴裕さん」

 髪に触れていた手を、ギュッと掴まれた。

「やだ、寝たふり?」

「今起きたんだよ」

 貴裕さんは、隣に寝ている貴斗を起こさないようゆっくりと体を起こす。その間も、私の手を離してはくれなかった。

「お礼なら、起きてる時に目を見て言ってよ」

 寝起きだから? 少し甘えたようなセリフに、胸がキュッとなる。

「ありがとう」

「よく言えました」

 貴裕さんは、ははっと笑って、貴斗にするみたいに私の頭を撫でた。

「貴斗ぐずらなかった?」

「眠かったみたいでちょっと。でもまあなんとかなったよ」

 大したことないように言うけれど、実際は大変だっただろう。私が気にしないようにそう言ってくれているのだと思った

「お腹空いてない?」

「貴斗と一緒に食べたんだけど……」

「物足りなかったんでしょう?」

「実は」と申し訳なさそうな顔をする。

 冷蔵庫に入れていたのは、貴斗でも簡単に食べられるスティックサラダと鶏胸肉のピカタにおにぎりだ。しかも貴斗に合わせて薄味にしている。

 貴裕さんくらい体の大きい人には物足りないどころか、食べた気もしないかも。

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