官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「素子さんがおかずを持たせてくれたの。一緒に食べない?」

「……いただこうかな」

 恐縮したふうに言うので、思わず笑ってしまった。

 茶の間のテーブルに温めたおかずを置く。野菜が欲しかったので、サラダだけはあるものでささっと作った。

「さ、食べよう」

「いただきます」

 素子さんが持たせてくれたのは、メバルの煮つけやアジの南蛮漬けの他に、魚ばかりだからと気を遣ってくれたのか、素子さん特製の豚の角煮も入っていた。

「どれもうまいな」

「ごめん、ビールでも買ってくればよかった」

「いいよ、帰れなくなったら困る――」

 突然、貴裕さんが口を噤んだ。ふたりの間にぎこちない空気が流れる。思い出したのは、昼間浜辺で交わしたキスのことだった。

 あれほど悩んでいたはずなのに、貴裕さんの視線に抗えずにキスをしてしまった。貴斗と三人でいるのが当たり前で、海にいたときはそれが永遠に続くような感覚に捕らわれていた。

 彼と貴斗と、三人での未来を夢見てもいいのだろうか。私に、その資格はある?

 黙ったままの貴裕さんと視線がかち合う。あの夜を思わせる、熱を孕んだ瞳に見つめられ、怖いような、なんだか落ち着かないような気持ちになる。

「美海……」

 貴裕さんが、口を開いた時だった。

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