官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「貴裕さん、中に案内するね」

 ホッと安堵の息をついて、貴裕さんに話しかけた。

「いい宿だね」

 ひぐらし荘は、諏訪島の南側、海に面した小高い丘の上に建っている。建物自体は簡素でそんなに飾り気もない。それでも庭には素子さんと私が手を入れた花壇があって、お客さんを季節の花で歓迎している。庭先で地元で取れた魚を干しているのもなかなか風情があると言って、喜んで写真に収めていく人もいる。

「……この花壇は君が?」

 貴裕さんが、花壇を見下ろして目を細めた。……昔のことを思い出しているのかもしれない。

「いえ、私は少し手伝うくらい。オーナーの奥さんが管理してるの」

 素子さんは、私の好きにしていいと言ってくれた。でも元々は素子さんが丹精込めて手入れしてきた庭だから、私は水やりをしたり草取りをしたりとちょっとした手伝いをするくらいに留めている。

「かわいい花壇だね。見ていて和むよ」

「ありがとう……」

 お客さんにそう思ってもらえるなら、それで十分だ。

< 15 / 226 >

この作品をシェア

pagetop