官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 荷台から荷物を取って、貴裕さんを宿の中に案内する。

 夕食の時間はとっくに始まっていて、食堂はお酒も入ったお客さん達の声で賑やかだ。フロントのすぐ隣が食堂で、厨房と忙しそうに行き来する素子さんとパートさん達の姿が見えた。

 雄ちゃんと貴斗が宿側にいる気配はない。今のうちに受付を済ませ、さっさと部屋に案内してしまえば貴裕さんと貴斗が鉢合わせる心配はないだろう。

「ここに名前と住所を書いてもらえる?」

「ああ」

 宿帳を開いて、貴裕さんにボールペンを手渡した。貴裕さんはさらさらとボールペンを紙に滑らせる。以前と変わらず、男らしく力強い、それでいて美しい文字だ。

 彼が花束やアレンジに添えるカードを書くのを、何回も見て来た。ふたりで過ごした懐かしい日々が、ふいに蘇える。チラリと覗いた感傷に蓋をして、私はスタッフの顔に戻った。

「貴裕さんのお部屋は藤の間よ。案内するね」

 そう言ってもう一度彼の荷物を持とうとすると、なぜか今度は遮られてしまった。

「いいよこれくらい。自分で持つ」

「でも、貴裕さんはお客様なんだし……」

 フロントで押し問答をしていると、玄関の自動ドアがさっと開いた。

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