官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「もっ、素子さん⁉」

「いいかげんにしてください、その態度。せっかく美海ちゃんと時田さんが真剣に向き合ってるっていうのに。周りの人間が応援してやらなくてどうするの!」

 普段からおっとりしておおらかな素子さんが、こんなふうに大きな声を出しているのを初めて見た。智雄さんも、驚いたのか目をぱちくりさせている。

「拗ねた態度を取るのは、もうやめてちょうだい!」

 立ち上がって腰に手を当て、素子さんが言う。しばらく素子さんのことを黙って見上げていた智雄さんは、視線を下に向けると「悪かったよ」と一言こぼした。

「ごめんね、美海ちゃん。うちの人、美海ちゃんと貴斗がいなくなるのが寂しいのよ。まったく、いつまでたっても子供みたいなんだから」

「いなくなるなんて、そんな」

 まだ決まったわけじゃないから、と言うと、今度は素子さんが目を丸くした。

「時田さんと、ちゃんと話したんじゃなかったの?」

 素子さんは、昨夜のうちに私と貴裕さんの間ですっかり話はついたものと思っていたらしい。

 夜の間は貴斗の様子が心配で、話をするどころじゃなかったこと、朝は朝で、貴斗が起きてきて、途中でうやむやになったことを話すと、素子さんは驚いた顔をした。

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