官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 駐車場に車を停め、私と貴裕さんは陸から海の中を蛇行する砂州を渡り始めた。

「こんなところがあるんだな」

「うん、これと言って何かがあるわけじゃないんだけど、とにかく景色が綺麗なの」

 鈴島の周辺はぐるっと遊歩道が整備されていて、島内には展望台や東屋もある。その辺りでお弁当を食べようと用意してきた。

「意外に遠いな」

「ふふ、疲れちゃった?」

 砂州を渡り切るのに、大人の足でも二十分ほどかかる。

「都会の人には厳しかったかな――、わっ!」

 たまには私の方から揶揄ってやろうと思ったけれど、私の方が砂に足を取られ、バランスを崩してしまった。砂まみれになることを覚悟していたのに、地面にぶつかる衝撃が訪れない。

「都会人だろうが田舎者だろうが、厳しいことには変わりないらしいな」

 間一髪のところで、貴裕さんが私の手を掴んでくれていた。おかげで、砂の上に転ばずに済んだのだ。その貴裕さんは、意地悪な笑みを浮かべ、私を見ている。

「俺を揶揄おうだなんて十年早い」

「十年もたたないうちに、貴裕さんを揶揄う余裕のある人間になりますよ!」

 貴裕さんの顔から笑みが消え、驚いた顔で私を凝視している。

「貴裕さん?」

 繋いだままの手のひらが熱い。

「ありがとう、もう大丈夫だから」

 恥ずかしくなって手を引いたけれど、貴裕さんは離してくれない。繋いだ手にキュッと力を込めて、熱い瞳で私を見た。

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