官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「貴裕さん」

 私も涙を堪え、貴裕さんの肩に触れる。

「ああ」

 貴裕さんは頷くと、貴斗から手を離して立ち上がった。

「貴斗のこと、よろしく頼む」

「私達は大丈夫。貴裕さんも気をつけてね」

「またすぐに会いに来るから」

「パパ!」

 フェリー乗り場へ向かおうとした貴裕さんの足に、貴斗がしがみつく。貴裕さんの足にギュッと顔を押し付けたまましゃくりあげている。貴斗はなかなか離れようとしなかった。

「貴斗」

 貴裕さんが荷物を私に預け、貴斗の体を抱き上げる。

「パパから貴斗にお願いがあるんだ。パパがいない間、ママのことを守ってくれる?」

「……たかとが?」

「そう、男同士の約束だ。守れる?」

 パパに頼りにされている。幼いながらもそう思ったのかもしれない。

「たかと……まもれるよ」

 貴斗はそう言うと、貴裕さんに向かって右手の小指を差し出した。

「約束だよ」

 貴斗の小さな指に、貴裕さんの指が絡む。しっかりと指切りをして、貴斗は涙を堪え貴裕さんを見た。

「おりる」

 貴裕さんが貴斗を下ろすと、貴斗は私の隣に立った。私の体に泣いて熱くなった体をギュッと押し付ける。

「……パパ、またね」

 涙声で言うと、貴斗は貴裕さんに向かって手を振った。

「じゃあ」

 軽く片手を上げて、自動ドアの向こうに行く。何度も私達を振り返っては、手を振ってくれた。

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