官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 しかし、これがなかなか実現できずにいた。と言うのも、諏訪島から東京までは、フェリーやバス、飛行機を乗り継いで長い時間をかけて移動しなければならない。私ひとりで幼い貴斗を連れての長距離移動は、どう考えても難しかった。

 どうしたらいいかと悩んでいた時、手を差し伸べてくれたのが雄ちゃんだった。以前から希望していた東京の大学での研修に参加できることになったのだ。

「俺が上京するときに一緒に行けばいいんじゃない? 美海とふたりで貴斗を見てればなんとかなるだろ」

「えっ、いいの?」

 そんな大変な時に一緒についていっていいのだろうかと思ったけれど、大らかな雄ちゃんにしては珍しく「ひとりだと逆に緊張すんだよ。おまえらがいた方が気が楽」なんてことを言う。

「でも、行きはいいけど、帰りはひとりになるな……」

 雄ちゃんの研修は二か月に及ぶ。一方私達は一週間の滞在予定だ。

「大丈夫よ。行きよりは帰りの方が貴斗も移動に慣れてると思うし、私ひとりで頑張ってみる」

 東京に引っ越ししたら、今までのように周囲に頼れる人はいない。今回のことは、私にもいい経験になると思う。

「わかった、でもあんまり無理するなよ。何かあったらすぐに時田さんを頼れ」

「うん、そうする」

 貴裕さんに対しても、変に遠慮をするのはやめた。ダメもとでも、相談だけはちゃんとしようと思う。これも、私の大きな気持ちの変化のひとつだ。

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