官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 私は、自分から姿を消して、貴裕さんに黙って子供を産んだ。それを今さらのこのこ出て来て、結婚したいなどいうのだ。自分勝手な人間だと思われるかもしれない。

「最初から受け入れてもらえるとは思ってないよ」

 むしろ歓迎されない可能性だって十分にある。でもその時は、私のしたことを真摯に謝り、せめて貴斗の存在だけでも受け入れてもらえるよう努力するまでだ。

「なんていうか、美海ってあんま欲がないんだな」

「……欲?」

「自分はダメでも貴斗さえ認めてもらえたらいいって? 美海って、いつでも自分以外のやつのこと優先じゃん。三年前も、時田さんのために身を引いて、今は貴斗のために生きてる。もっと自分がこうしたいとかこうなりたいとかないの?」

「そんなこと急に言われても……」

 いつだって、家族を失くしてからは特に、日々を生きていくだけで精一杯だったから。雄ちゃんの言う通り、自分の未来を思い描くなんてことは、あまりしてこなかったかもしれない。

「俺を見てみろよ。自分の欲望をそのまま言葉にし続けて、晴れて薫と夫婦だ」

 そう、何があっても折れずに攻め続ける雄ちゃんに負けて、とうとう薫さんがプロポーズを受け入れたのだ。入籍を済ませてすぐに雄ちゃんは薫さんの家に引っ越して、柚子ちゃんと三人での生活をスタートさせている。

「まあわからんじゃないよ。家のことだって、美海がずっとやってわけだし」

「雄ちゃんはそう言うけど、別に無理してそうしてきたわけじゃないよ。私が家事をやってたのは、それが私には当たり前で、生活するためには必要だったから……」

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