官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「貴斗ダメだろ。ひとりで走って行っちゃ。っと、失礼しました。いらっしゃいませ」

 貴斗に少し遅れて、雄ちゃんが玄関ホールへやって来た。貴裕さんを見て、ぺこりと頭を下げる。

「……雄ちゃん、おかえりなさい」

「遅くなってごめん。貴斗が海に行きたいって言うから、ちょっと散歩してきた」

「そうなんだ……」

「貴斗疲れてるだろうから先にお風呂に入れてくるな。……美海、どうかしたのか?」

 表情に出ていたのか、雄ちゃんは私に近づくと、小声で囁いた。

「あ、うん。この人、私の古い知り合いなの。これからお部屋にご案内するから、素子さんに食事の用意をお願いしてもらえる?」

「わかった。言っとく」

 雄ちゃんは貴裕さんのことを一瞥すると、表情を和らげた。

「お騒がせしてすみません。貴斗、向こうに行くぞ。ママはまだお仕事中だ」

 貴斗に向かって「おいで」と両手を差し出す。

「いやぁ、ママがいい~」

 普段は雄ちゃんにべったりなくせに、何か感じるところがあるのか、貴斗はいやいやと首を振って私から離れようとしない。貴斗が落ち着くように背中をさすっていると、それまで黙って事の成り行きを見守っていた貴裕さんが口を開いた。

「……君が貴斗くんかな。こんにちは」

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