官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「ママ、ひとがいっぱいだねぇ」

「本当ね。はぐれたらいけないから、しっかりママの手を握っていてね」

「りょうかい!」

 テレビででも見たのか、貴斗が敬礼のポーズをする。しばらく歩いてようやくタクシー乗り場を見つけた。

 タクシーに乗ってからは、貴斗は初めて見る東京の景色に夢中だった。高いビルや、何車線もある道路、うんざりするほど走っている車に、寒さもものともせず街中を歩く人々。どれも貴斗が生まれ育った島とは違う景色ばかりで、びっくりしている。

 これからは貴斗と貴裕さんと三人で、ここで暮らすのだ。久しぶりの東京暮らしに不安もあるけれど、今はワクワク感の方が強い

 そうこうしているうちに、エテルネル・リゾート本社ビルに到着した。

「てっぺん、見えないねぇ」

 貴斗はあんぐりと口を開けて、ビルを見上げている。初めてここを訪れた時、私も貴斗と同じようなことを思った。そして貴裕さんとの距離を思い知らされたのだ。あの時の感情が、少しの痛みを伴って思い出される。

 貴裕さんのお母様だけじゃない。彼の親族や、会社の社員、彼の周囲を取り巻く人々に私と貴斗の存在が歓迎されるとは限らない。改めて自分と貴斗の立場を思い知らされて、緊張が走った。

< 182 / 226 >

この作品をシェア

pagetop