官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 音を立てないようにして、寝室を出た。

 キッチンに行き冷蔵庫を覗いてみると、最低限の食糧しか入っていなかった。

 卵に牛乳、分厚いベーコン、それにパン。諏訪島にいた頃、貴裕さんが一度だけ食事を作ってくれたことがあった。その時のメニューとほとんど変わらない冷蔵庫のラインナップに、つい笑みが漏れる。

 朝食はあまり食べないと言っていたけれど、島から戻ってからも、努力して自炊しているようだ。

 あり合わせのもので簡単な朝食を作っていると、貴裕さんに抱っこされ貴斗も一緒に起きて来た。

「おはようふたりとも」

「ママおはよう」

「おはよう美海」

 朝起きて顔を合わせ、互いに挨拶を交わす。きっと世界中の誰もが、似たような朝を過ごしている。でもこれが当たり前の光景ではなかった私には、こんな何気ないことも幸せだと思える。

「ママあさごはんできた? ぼくおなかすいた!」

 貴裕さんの腕から降り、貴斗はさっさと自分の席に着いた。

「貴斗の椅子、買っておいてくれたのね」

 昨夜はローテーブルの方で食事をしたけれど、テーブルでも貴斗と一緒に食事を取れるよう、幼児用の椅子を用意していてくれた。ひぐらし荘で食事をした時のことを覚えていてくれたようだ。

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