官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 三歳になって自我が芽生えたのか、貴斗と私は言い合いになることも増えた。いけないと思いながらもついつい言い返してしまう私に対して、貴裕さんはいつも冷静だ。貴斗がやる気になる言葉をうまく選んでいると思う。

「俺は四六時中貴斗と顔をつき合わせてるわけじゃないからな。ずっと一緒だとイラッとする瞬間もあると思うよ」

 つい弱音をこぼしてしまった私に、貴裕さんが言う。

「いいんじゃない? 俺が緩衝材になれば。逆に俺が冷静じゃなくなった時は、美海が助けてよ」

「……わかったわ」

 穏やかじゃない貴裕さんなんてちっとも想像できないけれど、私の負担を減らして、心を軽くしてくれる。こういう時、貴裕さんがいてくれてよかったと心から思う。

「よし。いいぞ貴斗、すっごくかっこいい」

「ぼくおしごとする人みたいでしょ!」

 両手を広げて、私達の前でくるっと回って見せてくれる。

「パパよりずっとかっこいいよ。な、美海」

「うん、貴斗よく似合ってるよ」

 私と貴裕さんが褒めると、貴斗は頬を紅潮させた。

「ぼく大きくなったらパパとおしごとするの」

「パパと?」

「うん、パパのかいしゃでおしごとするんだよ!」

 そう言って、機嫌よく部屋の中でジャンプしている。貴裕さんは、一瞬目を見開いた後、破顔した。

「……そっか、パパ楽しみだな」

 貴斗を抱き上げ、高い高いをする。貴斗も喜んではしゃいだ声を上げた。

 本当にそんな未来が来たらいいな。たくさんの期待と緊張と、ほんの少しの不安を胸に、私達は貴裕さんの家を後にした。

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