官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
長くて短い一週間のはじまり
開け放たれた窓から、時折吹き込んでいた生ぬるい潮風がやんだ。昼の間、まだまだ鋭く感じた晩夏の日差しが、ほんの少し和らいだような気がする。
そろそろ時間かな、でもキリがいいところまでと、最後に残った大鍋をごしごしと洗う。きれいに洗い終え、私は濡れ手をタオルで拭いて、エプロンを脱いだ。
「素子さん、そろそろ上がってもいい?」
「あら、もうこんな時間? 遅くまでごめんね。貴斗が待ってるだろうから、早く行ってあげて」
「ありがとう。お疲れさまでした」
快く送り出してくれた素子さんにお礼を言って、私は宿の裏口から外に出た。
食堂の窓から、早めの晩酌を始めたお客さん達の賑やかな声が聞こえてくる。今日の釣果はまずまずだったらしい。智雄さんが腕を振るった料理が出されるたびにお客さん達から歓声が上がる。
私が勤める『ひぐらし荘』は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島、諏訪島にある民宿だ。諏訪島にはいい釣り場が多いから、釣り目当てで来るお客さんがとても多い。その他にも、ネットで見て気に入ったと言って泊まりに来てくれる人もいる。
ひぐらし荘は十数人も泊まれば満室になる小さな宿だけれど、オーナーで料理人でもある智雄さんの素朴かつ豪快な料理と、奥さんの素子さんの温かな人柄のおかげでお客さんが絶えることがない。島でも人気の宿だ。