官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 貴裕さんの実家は、都内の閑静な住宅街の一画にあった。広い敷地に都会的で洗練された佇まい。この辺りはいわゆる高級住宅街と呼ばれる場所だけれど、時田家はその中でも一際目を引く。

 極度の緊張で固まる私をよそに、貴裕さんはいたって普通。

「そんなに緊張することないよ。サバサバした人だから、気楽にしといて」

 なんてことを言われても、緊張せずにはいられない。何と言っても私には、勝手なことをしたという負い目がある。貴裕さんの人生を狂わせたと思われているかもしれない。

「本当に? 怒ってらっしゃらない?」

「……怒っては、まあいると思うけど」

 ――やっぱり。でも自分のしたことを思えば仕方がない。……結婚は反対されるかもしれない。
何を言われても動じず、どうか冷静に話ができますように。少しでも心を落ち着けようと、胸に手を当て深呼吸をする。

 貴裕さんが呼び鈴を押すと、インターフォンから「はぁい、悪いけど入ってきてくれる?」と軽やかな声がした。ロックが外れる音がして、貴裕さんがドアを開ける。

「さ、どうぞ」

「……お邪魔します」

 只事ではない空気を感じ取ったのか、貴斗もやけに大人しい。貴斗の手を引いて、建物の中に入った。

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