官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
翌日、私達はようやく婚姻届を提出した。
本当は、昨日のうちに出しに行くつもりだった。しかしあっという間にお母さまに懐いてしまった貴斗がなかなか帰りたがらず、結局夕食までごちそうになり帰るのが遅くなったのだ。
『本当に帰っちゃうの貴ちゃん。ばあば寂しい』
『ごめんねばあば。ぼくまたくるよ!』
すっかり孫に魂を奪われてしまったのか、最後の方はお母様を宥めるのに必死だった。
『……貴ちゃんなんて、俺にも言ったことないのに』
少々呆れ気味で貴裕さんが呟いていたのは、内緒だ。
婚姻届の受理は、拍子抜けするほどあっけなかった。でもその場にいた人全員が拍手をして祝ってくれた。初めはきょとんとしていた貴斗も、いつの間にか周りにつられて笑顔で拍手をしていた。たくさんの人の祝福を受けたあの光景は、一生忘れないと思う。
区役所を出て、冬枯れの並木道を家族三人で歩いた。真ん中を歩く貴斗は、両手をパパとママと繋いでご機嫌だ。
「これでやっと、君は時田美海だ」
貴斗に合わせた歩幅で歩きながら、感慨深そうに貴裕さんが言う。
「嘘みたい。だけど本当なのね」
左手の薬指にきらめく指輪を見て、ほんの少し不思議な気持ちになる。
貴斗を産むと決めた時、私はひとりだった。あの時、私と貴斗のふたりきりで想像していた未来が、どんどん上書きされていく。貴裕さんと寄り添う未来を今はきちんと思い描くことができる。
私は、幸せだ。体中にじわじわと喜びが広がっていくのを感じて、胸が温かくなった。