官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「ぼくは?」

「貴斗も今日から時田貴斗だよ。パパの名字になったんだ。新しい自己紹介できるかな?」

 ふたりして貴斗を見下ろすと、貴斗は両手を離し、「ぼくできるよ」と元気よく手を上げた。

「ときたたかとです。三さいです!」

「上出来だ」

 目を細めて、貴裕さんが貴斗の頭を撫でる。褒められて貴斗も誇らしげだ。

「この後どうする? 俺も一日フリーだけど」

 この一週間のために仕事を詰め込んだおかげで、私達の滞在中は貴裕さんのスケジュールは比較的余裕があるらしい。

「私につき合ってもらってもいい? 行きたいところがあるの」

 貴裕さんの車で向かったのは、かつてアトリエ・ラパンがあったところだ。

 なくなった店を見に行ったところで、虚しくなるだけかもしれない。でも、私が大事に育てた店があった場所を、もう一度だけ見ておきたかった。

 店の近くのパーキングに車を停め、車を降りた。

「パパだっこ」

「ん、貴斗おいで」

 貴斗は車に揺られて眠くなったのか、甘えて貴裕さんに抱っこをせがんだ。
 
 店までの懐かしい道を三人で歩く。ここを離れてもうすぐ四年。変わらない場所もあれば、店が入れ替わりすっかり雰囲気が変わってしまった場所もある。

 ラパンがあった場所も、きっと新しいテナントが入っているんだろうと予想していた。
 
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