官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「うん、このデザインになんだか見覚えがあるような気がして」

 しゃがみ込んで花束を見ていると、背後から「いらっしゃいませ」と声をかけられた。振り返って驚愕する。

「……ひょっとして、美海さん?」

「瑞季さん!」

 店の奥から現れたのは、アトリエ・ラパンで一緒に働いていた瑞季さんだった。

「……それでこのプチブーケ」

「あ、それですか?」

 下に並んだブーケを見て瑞季さんが微笑む。

「ラパン時代のあれを復活させちゃいました。楽しみにしてくださっているお客さんも多いんですよ」

「そうだったんですね。それじゃあここは、瑞季さんの?」

「ええ。あの後他のお店で修業して、つい最近自分の店を持ったんです」

「瑞季さん、夢を叶えたんですね」

「大変だったけれど、家族にも協力してもらってなんとかここまできました」

 改めて四年の月日の長さを思う。瑞季さんは自分の信念を貫いて前に進んでいた。

「それにしても、ずっと心配してたんですよ。ご親戚のうちに行くって聞いてから連絡が途絶えてしまって」

 いらぬ心配をかけたくなくて、瑞季さんには島へ帰ることを伏せ、東京の親戚にやっかいになると嘘をついていたのだ。東京を出る時に携帯も解約していたし、気にはなっていたものの、彼女とも連絡を絶ってそれきりだった。

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