官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました

 満開の桜が咲き誇る春、私と貴斗は貴裕さんが待つ東京へ引っ越しをした。

 諏訪島を出る時は、涙が溢れて止まらなかった。

 四年前、身寄りもなくたったひとりで貴斗を産むと決めた私を、温かく迎え入れてくれた人達。働く場所を与えてくれ、見守っていてくれた智雄さんと素子さん、私達を『大事な家族』だと言ってくれた雄ちゃん。彼らのおかげで今の幸せがある。

 これまで貴裕さんが住んでいたマンションで、三人での生活をスタートさせた。

 貴裕さんは相変わらず忙しいけれど、貴斗が寂しくないよう可能な限り早く帰って来てくれる。

「美海、俺そろそろ行くよ」

 家を出る貴裕さんを、貴斗と一緒にドアの前で見送る。

「貴斗行ってくるな」

「はーい、パパいってらっしゃい!」

 元気に手を振る貴斗の頭を、貴裕さんがくしゃりと撫でる。

「美海、今日の約束忘れてないな」

「もちろん、十五時ね」

「楽しみにしてる」

 そう言い残して、貴裕さんは慌ただしく家を出て行った。

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