官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「おっと失礼、電話だ」

 意地悪な笑みを浮かべると、電話に出ながら店の外に出て行った。

 照れくささと、恥ずかしさと、湧き上がる嬉しさとで顔が熱い。お冷を飲んでクールダウンしていると、ひとりの女性がコツコツとヒールの足音を立てて近付いてきた。

 美しいカーブを描く腰まである長い髪、人目を引く大きな目と清楚な笑みを浮かべる唇。でも私は、この唇が人のプライドを傷つけるような言葉を平気で吐くことを知っている。

「何であなたがこんなところにいるの?」

 冷たい瞳に見下ろされ、私は凍り付いた。四年前、私と貴裕さんがすれ違う原因を作った人、安藤さんだった。

 友人とお茶でもしに来ていたのだろう。少し離れたところでふたりの女性が安藤さんのことを心配そうに見守っている。

「聞いたわよ。子供を使って、まんまと貴裕さんの妻の座に収まったんですってね。育ちが悪い人って、平気で汚い手を使うのね。汚らわしい」

 あまりの暴言に驚いて、咄嗟に返事をすることができなかった。頭にカッと血が上っているのに、怒りのあまり指先はひどく冷たい。

「貴裕さんも貴裕さんだわ。あなたみたいな女性に簡単に引っかかるなんて。そんなに人を見る目がないのに、社長なんて務まるのかしら」

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