官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 私だけならまだしも、貴裕さんのことまで貶めるなんて許せない。

 人目も憚らず声を上げる安藤さんを見上げながら、冷静になれと自分に言い聞かせた。私と貴裕さんふたりで築き上げてきたものを何も知らない彼女に、このまま言わせておいていいはずがない。

 小さく息を吸って、安藤さんをキッと睨みつける。覚悟を決めて口を開いた。

「私達のことを何も知らないあなたに、そんなことを言われる筋合いはありません。あなたが何を言おうと、私はもう貴裕さんから離れるつもりはありません。……逃げません、絶対に」

「本当に、図々しいにもほどがあるわ」

「もう二度と俺達には近づくなと言ったはずだが」

 ゾッとするほど低い声だった。いつの間にか貴裕さんが戻っていて、激しい怒りを滲ませた表情で、安藤さんを見据えていた。

「あなたの妄想で、私の妻を悪く言うのはやめてもらいたい」

「妄想だなんて、勝手に子供を産んだのは本当のことじゃない。それだって、きっとあなたの気を引くために……」

「――いい加減にしてくれないか」

 発した言葉は、強い怒気を孕んでいた。

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