官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「安藤さんがいたのは偶然よ。きっとお友達とお茶をしてるところで私を見かけて、つい声をかけてしまったんだと思う」

 高級ホテルのティールームに私がいたというのも、彼女を逆上させた一因だろう。彼女からしたら、私はこういう場には相応しくない人間だろうから。

「だからって、君を傷つけていい理由にはならない。君がいることに気がついたって、知らんふりをして立ち去ることもできたはずだ」 

 そんな振る舞いができる人なら、最初からこんなに拗れるほど私達の関係に口出しなんてしなかっただろう。

「……ちょっと驚いた。貴裕さんがあそこまで言うとは思ってなかったから」

 ここまで私に食って掛かるということは、貴裕さんに対して好意を抱いていたのも事実だろう。そんな相手にああまで言われたら、私ならそう簡単に立ち直れない。

「あそこまで言わなきゃ、彼女はきっとわからないよ。拗ねてあの性格をよけいに拗らせるか、素直に聞き入れて心を入れ替えるか。そこから先は彼女次第だ」

「変わってくれればいいわね」

「ああ……」

 私も、貴裕さんだって、彼女に不幸になって欲しいわけじゃない。

「美海」

 貴裕さんが、繋いでいた手にキュッと力を込めた。顔を上げると、懇願するような目で私を見ている。

「……部屋を取ってもいいかな。美海のことだけ感じていたい」

 今起きた全てのことを忘れて、貴裕さんだけを感じていたいのは私も同じだった。

「ええ」

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