官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
【……Time has passed】


 エレベーターを降り、自分で鍵を開けて自宅に入る。

「ただいま」

 そう呟いたところで、この時間だ。暗い部屋から返事があるわけもない。俺は足音を立てないようにしてキッチンへ向かい、冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。

 明かりはつけずにリビングのカーテンを開け、ソファーに腰掛けてプルタブを開ける。相変わらず空は暗いままで、星など見えやしない。

 織姫と彦星は無事会うことができたのだろうか。夜空を見上げてビールを勢いよく飲み干すと、暗い部屋の絨毯に一筋の淡い光が刺した。

「貴裕さん? おかえりなさい」

 俺を呼ぶ、甘い声がする。

「ただいま美海。貴斗は?」

「ぐっすり寝てるわ。寝かしつけながら、私も一緒に寝ちゃってた」

「起こしてごめん」

「いいの。……貴裕さんの顔を見れて嬉しい」

 美海がはにかんだ笑みを浮かべる。たまらなくなって美海の手を引き、隣に座らせた。

「俺も嬉しいよ。美海のことが恋しかった」

 ここ数日仕事が立て込んでいて帰りが遅く、見るのは二人の寝顔ばかり。朝も早くに家を出るせいで、たまに話せても電話越しという日々が続いていた。

 隣に座る美海の指に指を絡めると、珍しく彼女の方から俺の肩に頭を預けてきた。

 美海が、こんなふうに甘えてくるなんて珍しい。お互いに不足していた、なんて。自惚れてもいいのだろうか。

「何してたの、灯りもつけないで」

「うん……、天の川でも見えないかなと思って」

「今夜は見えそうにないわね。貴斗も楽しみにしてたんだけど」

 俺の指を弄びながら、美海がため息を吐く。幼稚園で織姫と彦星の紙芝居を見てきた貴斗は、天の川が見えないと二人が会えないと言って、悲しそうな顔をしていたという。


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