官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
落花流水
美海side
はじまりは九月の雨の夜だった。
昼過ぎから降り出した強い雨と、雨が連れて来た季節を先取りした寒さのせいで、夕方以降の来客はほとんどない。閉店時間より少し早いけれど、今日はもう店を閉めよう。咲き誇る花達に心の中で謝りつつ、作業場以外の照明を落とした。
私は、高校卒業と同時に生まれ故郷の島を出て、フローリストになるため、東京の専門学校に入学した。
『湊は、本当は花屋さんになりたかったのよね』
ずっと前に、素子さん聞いたことがある。
私の母は生まれつき体が弱く、幼い頃から入退院を繰り返していたという。いつかは島を出て花屋になることを夢見ていたようだけれど、実際に母が島から出ることができたのは本島の病院に入院する時だけだったらしい。
私は、母の代わりに生かしてもらったのだから、私が母の夢を叶えよう。素子さんから母の話を聞いた時に漠然と考えたことが、いつの間にか私の夢となっていた。
二年間の専門学校を卒業後、エキナカにも出店している有名なフラワーショップに三年ほど勤めて経験を積み、今は都内にある『アトリエ・ラパン』という店で雇われ店長をしてもうすぐ二年目だ。
私の他に昼間のパートがひとりだけの小さな店だが、丁寧な接客とお客様の気持ちに寄り添ったアレンジを心がけているおかげが、そこそこ繁盛していると思う。