官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 店の奥にある作り付けの小さなキッチンで、リラックス効果のあるカモミールティーを淹れ、たまたま残っていたハーブ入りのクッキーも添える。トレイに載せて、彼のところへ向かった。

「お客様、よろしければどうぞ」

「え?」

 湯気の立つハーブティーとクッキーを差し出すと、彼が目を丸くした。

「カモミールティーです。暖まりますし、リラックス効果もあるので、よかったら」

「……いただきます」

 あまりハーブティーは口にしないのかもしれない。おそるおそるといった様子で一口含むと、彼の顔にじわりと笑みが浮かんだ。よかった、口に合ったみたい。

「あの、いつもこうして客にお茶を?」

「いえ、普段はそんな余裕はないんですけど」

 なんとなく、気になったのだ。彼がとても疲れているような気がして。

 それに、せっかくこの店を見つけてくれたのだから、花束の出来上がるまで花々に囲まれて、いい時間を過ごしてほしい。でも、わざわざそう言うのも野暮な気がして。

「お客様は、特別です」

 そう言って微笑むと、彼は一瞬驚いた後、ふっと表情を和らげた。

「嬉しいです。ありがとう」

 喜んでもらえたみたいだ。よかった。いつも、どんな時でも、お客様からのありがとうの一言が一番嬉しい。

「少しお時間いただきますね。ゆっくりなさってください」

 ぺこりと頭を下げて、私は再び作業台に向かった。

< 28 / 226 >

この作品をシェア

pagetop