官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「申し訳ございません。私の確認不足です。よろしければ、花束をお作り直ししますが……」

 ただでさえもう遅い時間なのに、これ以上彼を待たせるのは申し訳ないと思いつつもそう言うと、彼は静かに首を振った。

「いえ、あなたが根気よく母の好みを聞き出してくれたので大丈夫です。このままで、母は十分喜んでくれると思います」

「そうですか……」

 ホッとして息を吐く私に、彼がまた微笑みかける。

「本当にありがとう。お茶もごちそうさまでした」

「あ、ちょっと待ってください」

 バッグを抱え、そのまま外に出ようとする彼を呼び止めた。お客様用にお店に常備してある傘を差し、彼の隣に立つ。

「濡れてはいけないので、お車までご一緒します」

「何から何まですまない。ありがとう」

 花束の入った袋を大事そうに抱える彼に傘を差し掛け、停めていた車の前に向かう。彼が車に乗り込むのを待って、運転席のドアを閉めた。音もなく、運転席側のウィンドウが開く。

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