官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「美海さん、これがチョコレートコスモス? 本当にチョコみたいな匂いがするんだね」

 驚いた顔で、時田さんは花に顔を近づけて香りを楽しんでいる。店に通うようになって会話が増えたせいか、だいぶ花の名前も覚えてくれた。

「時田さんこちらへどうぞ」

 オーダーの内容を書き留めているノートを持って、時田さんをいつもの席へと案内する。私も彼の向かいの席に腰を下ろした。

 予算やアレンジの希望を聞き、日時の確認をして打ち合わせを終えた。近々結婚退職するという女性は、時田さんもかなりお世話になった方らしい。大体の相場を案内したけれど、彼はそれに感謝の意味も込めて少し色を付けた。私が当初想定していたよりも、幾分豪華な仕上がりになりそうだ。

 花束は、退職日当日に、私がお相手の勤務先に直接配達することで話がついた。

「喜んでもらえるといいですね」

「美海さんセンスがいいから信頼しています。君の作るアレンジは、どこに持って行っても評判がいいんだ」

「光栄です」

 彼のお母様も、誕生日の花束をとても気に入ってくれたと聞いている。そのお母様からも、時田さん経由で時折注文が入るようになった。

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