官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「時田さん、まだお時間ありますか? 今お茶をお持ちします」

「ああ、いつもありがとう」

 キッチンに立ち、温めたポットにお湯を注ぐ。白いポットの中で花開くカモミールを見つめ、忙しい彼が少しでも安らいでくれますようにと願いを込めた。

「ああ、美味しいな。これのおかげでよく眠れるようになったんだ」

「気に入ってもらえて私も嬉しいです」

 以前の時田さんは、仕事からのストレスで不眠がちだったらしい。それを聞いた私はカモミールティーの効能を話し、自分の分を少しお裾分けした。どうやら効果があったらしく、時田さんも自分で購入して寝る前に飲むようにしているらしい。

「ここに来て美海さんに出会わなければ、世の中にこんなにたくさんの花があることも、お茶で夜よく眠れるようになることも知らなかった。本当に君には感謝しているよ」

「そんな、大げさです」

 私は私が知っていることを時田さんに伝えただけだ。大したことはしていないのに、毎回彼はこうして感謝の気持ちを伝えてくれる。それが、ほんの少しくすぐったい。

「いや」

 きっぱりと打ち消して、時田さんが私を見る。熱っぽい眼差しに鼓動が高鳴る。

「君と出会えてよかった。……俺は幸運だ」

「時田さん……」

 こんな風に見つめられたら、勘違いしてしまいそうになる。息を詰めて、逸る気持ちを押さえ込んだ。

 彼はお客様だ。私はただの、花屋の店員。呪文を繰り返すように、心の中で唱える。

 それでも私は、彼から視線を外せない。

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