官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 美海が起きた時、ひとりでいることに変な誤解を抱かないようメモを残すことにした。部屋に備え付けの便せんにペンを走らせる。

 『美海へ』と書いて、ふと思い出した。

 初めて彼女の名前を聞いた時は、ちょっと珍しい名前だと思った。

 でもいつでも穏やかで、包み込むように優しい彼女はまるで凪いだ海のようだ。彼女と過ごす時間を積み重ねるたび、ぴったりの名前だと思うようになった。

 彼女は、なぜ『美海』というのだろう。

 海のそばで生まれ育ったのか、それとも彼女の両親に海にちなんだ思い出があるのか、何か願いを込めたのか。

 まあまた、時間のある時にゆっくり聞けばいい。俺達にはいくらでも時間がある。

 仕事のため先に出ることを書き、プライベート用の携帯の番号とチャットアプリのIDを書き残す。いつでもいいから連絡が欲しいと書いて、ベッド脇のテーブルにメモを置いた。 

 眠る美海の頬にキスをして、幸せな気持ちで部屋を後にした。

 まさかこれが、美海との別れになるとは思わずに。

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