官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました

「安藤さんが?」

「ええ、ずっとお待ちです」

 ホテルから一度自宅へ戻り、着替えて出社すると、秘書の管野(かんの)卓也(たくや)が俺を待ち受けていた。休日はちゃんと休めと言ったのに、菅野は俺が休日出勤をする時は律儀に顔を出す。

「菅野どうして出勤した? 今日は休みだろ」

「何言ってるんですか。私が出て来たおかげで安藤さんを足止めできてるんでしょ。感謝してください」

 菅野の父親も、長年に渡って俺の父を支え、うちの会社の秘書室を統括していた。そのおかげもあって菅野と俺のつきあいは古く、幼なじみのようなものだ。

 菅野が俺に遠慮なんてものをするはずもなく、苛立ちを隠そうともしない。まあそれも無理もない、と思う。


 安藤(あんどう)芹香(せりか)とは、知人主催のパーティーで知り合った。
 うちの会社でも関わりのある大手ホテルチェーンの娘ということもあって、それなりに丁重に接した。それがどうやら失敗だったらしい。

 順調にいけば、近いうちに父の跡を継いで俺が会社の代表となる。このことは、すでに業界内に広まっている。それを見越して、俺に秋波を送る女性は少なくない。

 安藤芹香もそのうちのひとりだった。

< 44 / 226 >

この作品をシェア

pagetop