官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 そう言って、役員フロアの応接室に陣取っているらしい。菅野も彼女の相手をするのに相当疲れたのだろう。すっかり辟易しているのが見て取れた。

「ちゃんと断ったはずなんだがな」

「全く響いてませんよ。それどころか火をつけたんじゃないんですか、逆に」

 なんというタフネス、と菅野が吐き捨てるように言う。

「それはそうと、昨夜はいったいどこにお泊りだったんですか。朝からいくら鳴らしても携帯も出ないし」

「……お泊りって、なんでわかるんだよ」

 言い返すと、菅野がふっと声に出さずに笑う。

「カマをかけただけです。とうとう純愛を実らせたんですね。おめでとうございます」

 俺の美海への執心を知る菅野に、これでもかと弄られる。親友に恋愛を茶化されるのは居心地が悪い。ぶすっとしていると、菅野が不意に真顔になった。

「くれぐれも安藤様には気づかれないようにしてくださいね。あの人にお相手の存在が知れると、何をしでかすかわからない」

「まさか、俺自身に執着してるわけでもなし。追いかけまわすことに飽きたら、すぐ次の相手を見つけるだろ」

 あくまでも、彼女が欲してるのはエテルネル・リゾート次期社長の妻の座だ。まともに俺自身を見ているとは思えない。

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