官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「どういうって、そのままの意味よ。貴裕さんが、エテルネル・リゾートの次期社長だってことは知ってるわよね?」

「貴裕さんが?」

 エテルネル・リゾートと言えば、国内外でリゾート施設や旅館などの運営している会社だ。仕事柄まとまった休みがなかなか取れず、あまり旅行に行く機会のない私でもその名前を知っている。

 旅行好きの常連のお客様が、日本中どこの施設も人気があり、なかなか予約が取れないと愚痴をこぼしていたのも覚えている。

 貴裕さんが、そんな誰もが知る一流企業の次期社長?

「その顔は、知らなかったみたいね」

「それは……」

 確かに私は、貴裕さんのことを何も知らない。どこに住んでいて、何という会社に勤めているのかも、家族のことも、何も。知っていることといえば、彼の名前と仕事用とプライベートの電話番号くらいだ。

 これまで、話そうと思えば話すことはできたはず。それなのに、貴裕さんはどうして私に何も教えてくれなかったのだろう。

「それで、あなたは?」

 内心ぐちゃぐちゃなのを悟られないように精一杯感情を押さえ問い返す。彼女は勝ち誇った顔で、私を見た。

「私は貴裕さんの婚約者よ」

「……えっ?」

 一瞬で頭が真っ白になる。固まって動けなくなっている私をよそに、彼女は一方的にしゃべり続けた。

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