官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「私は杉野先生のところに配達行ってきますね」

 瑞季さんに店を任せ、配達の用意に取りかかる。作業場の奥に設置してあるフラワーキーパーを開け、用意していた切り花の束を抱え上げた。

「あっ」

 たっぷりと水を吸っていたせいか、抱えた花が思いのほか重く足元がふらついた。派手な音を立てて、花を入れていた花桶が倒れる。

「店長!」

「ご、ごめ……。大丈夫」

「大丈夫じゃないです!」

 瑞季さんに強い口調で言われ、ビクッと体が反応した。怖い顔で、私を睨んでいる。

「……瑞季さん?」

「変なこと聞いてすみません。……店長、ひょっとして妊娠してるんじゃないですか?」

「――え?」

 瑞季さんったら、突然何を言い出すんだろう。……私が、妊娠?

「違ってたらごめんなさい。でも店長の様子見てると、そんな気がしちゃって。私も一人目を妊娠した時貧血になったりしたから……」

「やだ、ただの体調不良ですよ」

 そんなの、信じられない。信じたくない。でも心の中では、不安が靄のように広がっていく。

「じゃあ聞きますけど、最後に生理が来たのはいつです?」

「え、っと……」

 働かない頭で、一生懸命考える。レジ横に貼ってあるカレンダーを確認して、愕然とした。

「……一カ月以上前です」

 今月の予定日はとっくに過ぎている。自分のことなのに、どうして今まで気がつかなかったんだろう。

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