官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「そうですか……」

 私の様子から、何かを察したのかもしれない。瑞季さんはそれ以上突っ込んだ話はしなかった。

「今日はもう上がってください。閉店作業は私がしますから」

「えっ、もう保育園のお迎えの時間でしょう?」

 瑞季さんには、五歳の女の子と三歳の男の子がいる。ふたりともママが大好きで、今も保育園でママのお迎えを今か今かと待っていることだろう。

「今日は旦那に頼みます。店長はゆっくり体を休めてください。それと、ちゃんと病院に行ってくださいね」

「病院、ですか?」

「ええ、検査薬だけでは不十分なんで。私が通ってた産婦人科でよかったら紹介しますから。ちゃんとお医者さんに見てもらって、赤ちゃんのこと教えてもらわなきゃ」

 もう自分ひとりの体ではないんだから、と瑞季さんが言う。

「……そっか、そうですよね」

 妊娠の事実にただただ驚くばかりだったけれど、このお腹の中に貴裕さんとの子が宿っているかもしれないのだ。このまま何もしないわけにはいかない。

「それに、貧血のことも相談した方がいいですよ。つわりが始まったら、今よりもっとしんどくなるかもしれないし」

 刻一刻と、自分の体は変化しているのだと思い知らされる。

「あまり考えこまないでくださいね。不安になったら何時でもいから電話ください。店長はひとりじゃないってこと、覚えておいてくださいね」

「……ありがとう、瑞季さん」

 身寄りのない私のことを思って、敢えて瑞季さんは踏み込んでくれる。彼女の存在が本当に頼もしいしありがたい。

 でも、まずは私がしっかりしなくちゃ。これからどうするのか、ちゃんと考えなくちゃいけない。

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