官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 悶々としながら店に戻り、午前中の勤務だけだった瑞季さんと交代した。

「病院はどうでした?」

「……はい、妊娠してました」

 瑞季さんは、無言だった。皆に諸手を挙げて喜ばれる妊娠ではないことを、たぶん彼女は気づいている。

 それでも病院で赤ちゃんのエコー写真を見せられた後、私の中に残っていたのは、これから生まれてくる赤ちゃんを愛しいと思う気持ちだった。そして、貴裕さんとの間の子供だからこそ、産みたいと思う気持ちも強かった。

「店長がどういう決断をしようと、私は応援してますから」

「……瑞季さん、ありがとうございます」

 一人だけでも、私の味方でいてくれる人がいる。それだけで、心強かった。


 今日は思いの他来店が多く、午後の時間はあっという間に過ぎた。

「もうこんな時間。早く花束作らなきゃ」

 ホテルで行われているというお別れの会の会場に電話で注文の入った花束を配達するのが、今日最後の仕事だ。

 式の終わりに、個人的に渡すものなのだろう。提示された価格帯は通常よりも高めだったが、あくまでお別れの席だ。花も値の張るものを使いつつもあまり仰々しくならないようかなり気を遣って仕上げた。

「よしっ、こんなもんかな?」

 幸いなことに、つわりの症状は落ち着いていた。いつもより早めに店を閉めて、配達用のバンに乗り込む。私は指定されたホテルへと出発した。

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