官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 配達先は、ホテル御三家の一つと言われる由緒あるホテルだ。海外からの宿泊客も多く、芸能人の結婚式や国際会議などでも使われる。

 立派な建物に圧倒されつつ、私は建物の裏手にある業者専用の入り口から、ホテルの中に入った。

 配達先に指定された会場は、メインタワーの十五階にある宴会場だ。警備室で行き方を聞き、従業員専用のエレベーターを使って会場を目指す。

 フロアにつくと、大勢のスタッフが忙しない様子で準備を進めていた。

 ロビーにはたくさんの花輪が飾られている。故人はきっと地位のある立派な人だったのだろう。

 ふと足を止めた先に、故人を紹介するパネルが展示されていた。スタッフの邪魔にならない位置から、パネルを眺める。上部の目立つところに『株式会社エテルネル・リゾート』の文字が見えた。

「……え?」

 故人の顔写真の下に、『時田(ときた)貴徳(たかのり)』と書いてある。

 貴裕さんの婚約者だという女性が来た後、彼の会社のことについて少し調べたから知っている。間違いない、この人は貴裕さんのお父様だ。

 私も連絡できずにいたけれど、貴裕さんからの連絡が途絶えたのも、店に来ることがなくなったのもお父様が亡くなったから?

 それなのに、私は彼の気持ちを疑ってしまった。婚約者の存在にショックを受けたからって、私はなんて自分勝手なの……。

 そう自分を責めると同時に、この事実を貴裕さんから聞かされていないということにもショックを受けている自分がいる。


「あら、もう届けてくださったのね」

 ぐちゃぐちゃな気持ちで立ち尽くす私に、声をかける人がいた。

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